超大口径の「ノクティルックス」は、世界で初めて非球面レンズを採用した革新的なレンズとして登場しました。精緻を極めた製造工程によって、肉眼では捉えきれないほどのディテールを描き出します。夕暮れ時、色彩が世界から消えゆく瞬間でさえ「ノクティルックス」の写真には命があらゆる姿で輝き続けます。独自の光の収束、幻想的なボケ、際立つ被写体の分離、そして絞り開放ならではの神秘的な雰囲気――「ノクティルックス」はそれまで写真で不可能とされた自由な表現を解き放ったのです。
現代を代表するフォトジャーナリストの一人、トーマス・ヘプカーは1966年、史上最も観客を痺れさせたボクサーとも言えるモハメド・アリの撮影を任されました。彼はアリの日常に寄り添い、そのルーティンや人となりに密着することで、数々の独創的なポートレートを生み出します。その中で最も象徴的とされるのがこの一枚。トレーニング中のアリがほんの一瞬、カメラに向かってファイティングポーズを取った瞬間です。ホープカーは慌ててシャッターボタンを押し、ピント合わせにも苦労しましたが、後にそれが「完璧なショット」だったと気づくのです。

1966年米国・シカゴ


私は、自分の写真で人々を挑発したいと思う。ただし、人工的にセンセーションを作ったり、真実を歪めたくはない。– トーマス・ヘプカー(1965年)© Arne Wesenberg
